ヘッドフォン ATH-DSR9BT をリメイクした

audio-technica のヘッドフォン、「ATH-DSR9BT」をリメイクした。リメイクとは言っても内部的にではなく、あくまでも意匠だけ、お色直しみたいなものである。

まず ATH-DSR9BT について簡単に説明すると、aptX-HD に対応した Bluetooth 接続のワイヤレスヘッドフォンである。発売は2016年の11月。私が購入したのは2017年2月だった。当時はまだ aptX-HD に対応した製品は数少なかった。というかほぼなかったように思う。
実際にヨドバシカメラの店舗で試聴してみると、その音の良さに驚いた。無線だとは思えないほどであった。それまでもワイヤレスのヘッドフォンやイヤフォンはあったが、どれも音質という面では妥協が求められる代物が多かった。使い勝手とか、デザインという面で惹かれる人はいたと思うが、音の面で「このヘッドフォンがいい」と選ぶものではなかった。また低音をきつく強調した音作りで私の好みではなかったと言えば簡潔かもしれない。

それに対しこの ATH-DSR9BT はいい意味で主張がなかった。ピュアオーディオ寄りのアプローチをしたワイヤレスヘッドフォン、という印象を受けた。五月蠅い店内での試聴だから、一聴するとインパクトに欠けるものの、少し音量を上げて聴けば聴くほどにその情報量の多さ、奥行き感、繊細さをまっとうに扱えるその表現力に「無線でもここまで来たか!」と驚かずにはいられなかった。

https://www.audio-technica.co.jp/product/ATH-DSR9BT

https://av.watch.impress.co.jp/topics/audiotechnica1611/

https://www.phileweb.com/review/article/201611/18/2304.html

購入当時のプレイヤーは Astell&Kern の AK70。その後 Sony NW-A45。実際にワイヤレスを使うと、電車通勤というシーンに限って言えばもう有線には戻れない。鞄を動かす、人混みですれ違う、そんな環境で無線のなんと気楽なことか。
ちょうど一年ほど経ったところで ATH-DSR9BT もこなれてきてふくよかに鳴らしてくれるようになっていた。その頃こんなポストをしている。

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無線で聴ける音じゃないって、まじで。 ATH-DSR9BT と NW-A45、この組み合わせはひとつの答えではなかろうか。 ちなみに ATH-DSR7BT も聴いたけどこれも十分にアリ。下位モデルというより音づくりの方向性の違いに感じた。

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さて、そんな絶好調だった ATH-DSR9BT もその後ほどなくしてまったく聴くことがなくなってしまった。それから今まで1年以上は空いたと思う。一体なにが起きたのかというと、ヘッドフォンにはつきまとうあの問題である。

これも「人工皮革」と呼ばれる種類のものなのだろうか。もちろん買う前からこうなることは分かってはいるのだが、やはり実際になるとやるせない気持ちになる。こんな劣化の早い素材を使うなよとメーカーに腹立たしくもなるし、イヤフォンのイヤーピースほどイヤーパッドの交換品が一般化していないことにも腹が立つ。
こうなってはどんなに音が良かろうと、論外である。

オーディオテクニカのサポートページを見ると、以前からイヤーパッドの交換部品が買えるようになっていたのだが、ご覧の通りイヤーパッドだけ交換してもヘッドバンド部分も同じ素材で同じように劣化しているので、これだけ替えたとしても用をなさない。じゃあ意味ないじゃんということでずっと部屋の片隅で埃をかぶる日々が続いていた。

そんな折、一年以上触ることもなかったのでいい加減修理するか処分するかの判断をしなければと改めて調べたのだが、以前と同じようにヘッドバンド部分の交換品はラインアップされていなかった。2年も聴いていない5万円のヘッドフォン。いよいよ捨てるしかないのかという瀬戸際まで立たされた瞬、閃くのである。いつものアレが。

\ピコーン/ 作ればいいじゃん?

この一年でレザークラフトで小物を作ったりするようになったので、ヘッドバンド部分だけ革で包むように覆ってしまえばいい。本体はグレー、ヘッドバンド部分は茶色というのも洒落てるではないか。
それならばとイヤーパッドの交換品を購入した。(ヘッドバンド部分と違い、イヤーパッドは視聴性能に大きく影響するので手作りはハードルが高い)

実際問題、イヤーパッドが劣化する頃にはヘッドバンドも同じように劣化すると思うのだが、その点オーテクはどう考えているんでしょうね。サポートページに記載されている概算の修理費用もイヤーパッドの交換と充電池交換だけだった。

https://www.audio-technica.co.jp/support/repair/search/result/ATH-DSR9BT/

糸切りで縫い目部分から開口。触るとボロボロと滓が落ちるので、イヤーパッドはまだ交換していない。
ハウジングとの連結部分は簡単には外せないようになっていた。無理して壊すと泣けるので、ここは外さずにピンセットで残りの布片を取り除くだけにとどめた。

最初は前述の通り革でカバーを作ろうと考えていたのだが、こうして開けてみるとまたイメージが膨らむものである。「…布でもいいんでね?」と手持ちのストック布をあてがってみる。

おお、いいじゃない。上段左の布は当初想像していたレザーの雰囲気に近い。グレーとブラウン、落ち着いたいい雰囲気である。
下段のはバンダナを巻いただけ。これはいい。縫い付けるのではなく巻いて結ぶだけにすれば気分や季節によって替えられるし、汚れたら外して洗える。

どれも良かったので悩んだが、ガラッと雰囲気の変わるチェック地の布を今回は選んだ。初っぱなにはこれくらい強い方がいい。この布はずっと以前にネクタイ(とポケットチーフ)を作った時の残り布。
布は両サイドをヘアピンで留めているだけ。

イヤーパッドも無事に交換完了。やはり心地がいい。


いいねえ。ハンカチやバンダナでいくらでも代用がきくので文字通りファッションに合わせて着替えられる。本体がグレーというのも功を奏しているかもしれない。

数日出歩いて過ごしたものの、緩んだりすることはなかった。ヘアピン有能。

せっかく綺麗に直ったので今私の所持しているヘッドフォンとイヤフォンとで記念写真。

簡単に紹介すると左から

  • Fostex TH900 / 2014年3月購入
    至高のヘッドフォン。音楽を鑑賞するためのヘッドフォン。素晴らしい。横濱音羽製作所の Moonlight Sonorous に繋いでいる。
    ちなみにこのヘッドフォンもイヤーパッドを一度交換している。こちらはヨドバシで売っていて助かる。
  • Sennheiser HD650 / 2014年3月購入
    たぶんこの価格帯では最高の逸品。
    オープンエアタイプなので長時間の装着・視聴でも疲れない。イヤーパッドも布製なので今回のような劣化はない。汗をかいても蒸れないので快適そのもの。ゲーム・映画などエンタテインメント用。DENON DA-300USB に接続。
  • Bowers & Wilkins P7 / 2016年2月購入
    最初その音を聞いたときは特徴的なパンチのある響きに驚いたけど、不思議とバランスは悪くなかったし、ずっと印象に残っていた。
    そのパンチ力とミニジャックであることからもっぱらラップトップパソコン(MacBook Pro)に繋いでいる。相性ばっちり。
    素晴らしいのは本革製であること。おかげで一度も交換していないし、現在も劣化していない。重ねて言おう、素晴らしい。
  • audio-technica ATH-DSR9BT / 2017年2月購入
    Walkman やスマートフォンに繋いでの外聴き用。以前 Sony のノイズキャンセリングも使っていたが、本当に街の音が聞こえなくなるので危ない&怖いのでやめた。飛行機での出張が多いとかなら断然ノイキャンだけど、車や人の往来のある通りでは使う気になれないのであえてノイキャンは選択肢から外している。
  • Sennheiser CX3.00 / 2018年4月購入
    現在リスニング用で唯一持っているイヤフォンがこれ。あまり出番はないが、いざ使うとなったときでも納得できる音を予算5千円前後で探したらこれだった。

自分は赤が好きなのだろうか。好きだけども。こうして価格も用途もバラバラのものを並べてみても違和感がない。

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