作者か、作品か
最初に断っておくと、ここで連ねている私の葛藤と混迷の記録はおそらく世の中の大多数の人間にとって「本当にどうでも良いこと」のひとつであろうと思う。だが私にとっては気になってしょうがないことなのである。
CD というものを多く(数百枚、数千枚以上)所持している人はいったいその CD をどうやって並べているのだろう。CD ラックや CD 用の棚で保管していることが多いと思うのだが、肝心なのはその「並び」である。
私の場合はまず大まかにジャンルでエリアを分け(このあたりはポップス、このあたりはテクノ、という感じ)、その中でアーティストごとにまとめ、そして各々の CD は左から発表年順に並べている。アーティストの並びは必ずしもあいうえお順ではないが、洋楽に関して言えば A ~ Z で並べることが多い。
冒頭の写真はやなぎなぎの CD だが、個人制作とメジャーリリースとでは分けている(完全な発表順にするとそれらが混在することになる)。
なぜある程度の規則性をもって並べるのかというと、それは「探しやすさ」のためでもあり、「居座りの良さ」とでも言うべき「そこに意図を持って存在している」という心地よさのためでもある。
「あの CD を聴こう」となったときに私はアルバムタイトルよりもアルバムジャケットを思い浮かべることが多い。なのでアーティストごとの垣根を越えて「すべてのアルバム」をタイトル順に並べてしまうと探し出すのに難儀することになる。例えば
Weather Report の「Heavy Weather」、ではなく
Weather Report の「帽子と雷のアレ」
で私は思い浮かべることが多い。
Weather Report 「帽子と雷のアレ」
さて、モノである CD の場合はこれくらいファジーでも十分なのだが、デジタル管理になるとそうもいかない。優に1000を越えるアルバムの中で「アレ」では通用しなくなってくる。より厳密な規則性をそこに作らないと「アレが聴きたい」となったときに延々とスクロールしながら発狂してしまうことになる。
まず、私はパソコンで聴く(というかステレオシステムがファイルサーバの音楽ファイルを参照している)場合、foobar2000 を使っている。ジュークボックスをイメージした自作のスキンを適用し、あらゆる音楽を「ジャンル」「(アルバム)アーティスト名」「(発表年順の)アルバム名」という三段構えで見つけられるようにしている。
おそらくアーティストごとに見た場合一番作品の多い坂本龍一を聴きたい場合はこのようになる。私にとって坂本龍一の音楽は「坂本龍一」という単体ジャンルなので、「Skmt」というジャンルを作っている。コラボ作品なども多い坂本龍一だが、このように「ジャンル:Sktm」「アルバムアーティスト:Ryuichi Sakamoto」でソロ作品が列挙される。
なお、私はアルバムは発表年順に並んでいないと気が狂ってしまう体質なのでアルバム名の頭には必ずリリース日を記述している。発表年を無視してアルバム名で並ぶとかもう失神案件である。
基本のフォーマットはこのようになる。
LOVE PSYCHEDELICO や Sade のこれら作品の場合、foobar2000 上で探す場合はジャンル、アルバムアーティストの順になるので
Rock をまず選択し、名前順でソートされている中から LOVE PSYCHEDELICO を選択すれば作品が発表順に並ぶ。いたってシンプルな、基本の形だ。
ところがそれだけではフォローしきれない作品群がある。
ひとつが同人作品のうち二次創作にあたる作品群である。ここで例に挙げたのはサークル「NCRADLE」の一部の作品だが、このサークルはファミコンの実機音源を使った二次創作に特色がある。
これを先ほどと同じように foobar2000 上で探してみる。
ジャンル Coterie(私は同人作品のジャンルには Dojin ではなく Coterie とつけている)を選択するとサークル名が並ぶので NCRADLE を選択する。さきほどの Sade などと構造は同じである。
だがちょっと待って欲しい。二次創作というからにはその母体となる作品があるわけで、この場合「ガルパン」や「FF」が大きな存在としてある。その視点に立てば、この作品群のジャンルは「Anime」であり「VideoGame」になる。
よってジャンルには「Coterie」と「Anime」などと2つのジャンルを指定する。
神ソフト Mp3tag では「\\」を挟むことで複数のタグを指定できる。
こうすれば「ガルパンアレンジのアレ」とか「FF 4 のファミコンアレンジ」という私の「アレが聴きたい」という衝動に応えられることになる…と思いきや…
オーーーノーーーーー!! 違ーーーう!
Anime で検索したときには「ガルパン」「けもフレ」、VideoGame で検索したのなら「FINAL FANTASY」でソートされないと駄目なのだ。「NCRADLE」はアニメタイトルなのか?という話である。同人サークルで絞るときには当然サークル名だが、ある作品の二次創作として見たときには作品名で絞られねばならない。
こういうことだ。「何かを探す」というのは思考の旅路なので、「アニメ作品」から始まった旅ならば「アニメ作品タイトル」に出会わなければならない。ここでアーティスト名を出されても戸惑うばかりかそもそも美しくない。
そして二次創作品ならではの問題としてまだある。公式の作品との混在だ。
これは特に人によって感じ方は異なると思うのだが、公式作品と二次創作品が混在することについて、私は「いやだ」と感じる。オフィシャルはオフィシャル、二次創作は二次創作でそこはきっちりと棲み分けをした上で楽しみたいと思う。
本当ならば作品タイトルであるジャンル名はひとつに統一した上で「公式作品」「二次創作品」「混在」をワンタッチで切り替えられると良いのだが、なかなかそれは難しいので妥協案として、二次創作品の元作品タイトルには「Deriv.」(Derivative=派生物)と付記した別のサブジャンルとして用意した。
二次創作が盛んな「艦これ」では公式作品・二次創作品ともに数が多いためこの区分けが非常に強力に作用する。
あぁ、気持ちいい…(変態
二次創作品と同様の問題は、サウンドトラックなどでも生じる。先に挙げた坂本龍一は、映画作品のサウンドトラックを手がけることも多いが、同じようにジャンル「Soundtrack」で検索したときに映画タイトルではなく「坂本龍一」で並んでしまう。
このように単に2つのジャンルを指定しただけだと
Soundtrack でソートしたときに Ryuichi Sakamoto で並んでしまう。
本来はこのように作品名でソートされるべきである。
私もどうしたものかとずいぶん悩んだのだが、今のところ解決方法は2つある。
その2つとも考え方は同じで、「アーティスト名」として捉えたときのアルバムと、「作品名」で捉えたときのアルバムをそれぞれ用意することだ。片方は「アーティストのアルバムとして」、もう片方は「元の作品に付随するアルバムとして」という2面性に対応させる。
その方法として1つは CUE シートによる別アルバムとしての読み込み、もう1つは単純にファイルを2重に用意し、片方に別アルバムとしてのタグ付けを行う。
1つ目の CUE シートによる別アルバム作成の利点は、元の音楽ファイルは1つで済むことだ。元の音楽ファイルを参照しつつ、CUE シート内で別アルバムとして記述する。
Mp3tag から見た元のファイルのタグ付け。アルバムアーティストは「NCRADLE」、ジャンルは「Coterie」となっている。このファイルには「Anime」のジャンルを加えない。
そして CUE シートには以下のように記述する。
REM GENRE Anime PERFORMER "GIRLS und PANZER(Deriv.)" TITLE "(20161230) ファミコン実機音源で「ガルパンはいいぞ」第1集" FILE "01. 戦車道行進曲!パンツァーフォー!.flac" WAVE TRACK 01 AUDIO TITLE "戦車道行進曲!パンツァーフォー!" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "02. 乙女のたしなみ戦車道マーチ!.flac" WAVE TRACK 02 AUDIO TITLE "乙女のたしなみ戦車道マーチ!" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "03. ブリティッシュ・グレナディアーズ.flac" WAVE TRACK 03 AUDIO TITLE "ブリティッシュ・グレナディアーズ" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "04. アメリカ野砲隊マーチ.flac" WAVE TRACK 04 AUDIO TITLE "アメリカ野砲隊マーチ" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "05. こんな普通の学園生活って素敵です!.flac" WAVE TRACK 05 AUDIO TITLE "こんな普通の学園生活って素敵です!" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "06. フニクリ・フニクラ.flac" WAVE TRACK 06 AUDIO TITLE "フニクリ・フニクラ" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "07. カチューシャ.flac" WAVE TRACK 07 AUDIO TITLE "カチューシャ" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "08. パンツァー・リート.flac" WAVE TRACK 08 AUDIO TITLE "パンツァー・リート" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "09. 緊迫する戦況です!.flac" WAVE TRACK 09 AUDIO TITLE "緊迫する戦況です!" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "10. みんな最高の友達です!.flac" WAVE TRACK 10 AUDIO TITLE "みんな最高の友達です!" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "11. 学園十色です!.flac" WAVE TRACK 11 AUDIO TITLE "学園十色です!" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "12. アンコウ干しいもハマグリ作戦です!.flac" WAVE TRACK 12 AUDIO TITLE "アンコウ干しいもハマグリ作戦です!" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "13. 雪の進軍.flac" WAVE TRACK 13 AUDIO TITLE "雪の進軍" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "14. 決断します!.flac" WAVE TRACK 14 AUDIO TITLE "決断します!" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "15. Sakkijarven polkka.flac" WAVE TRACK 15 AUDIO TITLE "Sakkijarven polkka" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "16. When Johnny Comes Marching Home.flac" WAVE TRACK 16 AUDIO TITLE "When Johnny Comes Marching Home" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00 FILE "17. おいらボコだぜ!.flac" WAVE TRACK 17 AUDIO TITLE "おいらボコだぜ!" PERFORMER "白河しら" INDEX 01 00:00:00
ジャンルには Anime、アルバムアーティストにあたる冒頭の PERFORMER に GIRLS und PANZER(Deriv.) を記述。foobar2000 で *.cue を読み込みの対象にすれば、ジャンル Coterie で絞り込んだときにはサークル名、Anime で絞り込んだときにはガルパンの二次創作品であることを示す GIRLS und PANZER(Deriv.) で並ぶ。Excellent.
CUE シートによる管理の不利点は「面倒くさい」ことに尽きる。CUE シートに特化したエディタもないと思うので分かりにくいのもある(記述ミスしても気づきにくい)。
ただ CUE シートは楽しい。記述次第で好きにアルバムを作れる。ある曲だけを繰り返したりということもできる。プレイリストをアルバム化してしまえると思えばわかりやすい。その自由度の高さはとても楽しく魅力的であるのは間違いない。
解決法のもう一つ、別ファイルを用意することだがこれは非常にシンプルだ。
アルバムアーティストは「Ryuichi Sakamoto」、ジャンルは「Skmt」。アーティストのアルバムとしての位置づけ。
フォルダの中に入れ子状に「(20071212) トニー滝谷(Soundtrack)」というフォルダを作り、音楽ファイルをコピー。そちらのタグ付け。
アルバムアーティストは「トニー滝谷」、ジャンルは「Soundtrack」。元作品(この場合は映画「トニー滝谷」)に付随する音楽作品としての位置づけになる。
タグ付けは Mp3tag で一括してできるので手間は CUE シートの比ではない。その代わり、同じアルバムなのにファイルを2重に用意することになる。パソコンならまだしもポータブルオーディオ向きではないかもしれない。まあそもそも CUE シートに対応したポータブルオーディオプレイヤーは聞いたことがないし、スマートフォンも無理であろうが…。
メリット・デメリットをまとめるとこのようになる。
- CUE シートによる管理
- 元ファイルがひとつで済む
- 記述が面倒。対応ソフトが少ないかも?
- 別ファイルによる管理
- 手軽。ほぼすべてのソフトに対応すると思われる
- ファイルが2つ分必要なので容量が嵩む
私は最初 CUE シートを記述していたが、最近では面倒になってファイルコピーしている。楽って正義…
この作者から探し出すか、作品から探し出すかの問題は、結局のところ自分の頭の中のイメージがどこを起点にしているかに依存する。「あのサークル」から思い浮かべたのであればサークル名を求めるわけだし、「あの作品のサントラ」となれば作品名を求めることになる。これはつまり欲求の矛先だ。その矛先をちゃんと受け止める的ができていないと「あのアルバムがない!」となってしまう。この「作者か、作品か」の違いは人によって変わるだろうし、私自身時と場合により変わる。そのわがままな欲求に臨機応変に応えるための試行錯誤がこの、ほとんどの人にとっては本当にどうでもいい、CD の並べ方問題なのだ。
いまだ完全ではないが、このように管理し始めてから私は今のところ発狂せずに済んでいる。目下の悩みはいまだ取り込んでいない CD の入ったダンボール箱だ。