睡眠と体幹と遺伝子検査と

2023年の夏、私のいくつかの生活習慣に変化が生じた。

ひとつは睡眠時間。
私はそれまで、睡眠というのは短く・効率よくとることが可能だと思っていた。時間当たりの睡眠効率を上げられるのだろうと。たとえば睡眠効率が 1.0 のとき8時間の睡眠時間が必要であるならば、睡眠効率を 1.2 に上げることができれば必要睡眠時間を 6時間40分 ほどに短縮できる。そのために深くて質の良い睡眠をとるにはどうしたらいいかと考えていた。
これが根本的に間違いであると教えられたのは、このひとつの動画である。睡眠研究者である柳沢正史教授が WIRED Japan の YouTube チャンネル、その動画シリーズの Tech Support に登場された。柳沢先生は筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS、トリプルアイエス)の機構長でもある。

https://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/japanese/

曰く、睡眠にとって一番大事な質は「量」である、と。必要な睡眠時間を確保すること以上に質を上げるものはないし、その睡眠時間は訓練で短くできるものではない。兎にも角にも「時間」を確保すること以上に大事なことはない。質を上げれば睡眠時間を短くできるだろうと当たり前のように考えていた私にとって、まったくの寝耳に水であった(睡眠だけに)。

この動画を見たのを機に、柳沢先生の講義の動画などをいくつか見た。睡眠というのがいかに謎の多い生理現象であるか、非常に興味深い。脳を持たない生物(クラゲなど)でも眠ることが分かっている。また生物にとって非常にリスキー(周囲への感知能力が著しく低下する)な睡眠という行為が、ある程度の神経系を持つ動物すべてに備わっていて、淘汰されることはなかった。

なぜ眠らなければならないのか。眠気の正体は一体なんなのか。
この2つの質問にいまだ最先端の神経科学でも答えることができない。非常におもしろい。

そして私は仕事のある日は5時間、下手すると3時間台であった睡眠時間をとにかく増やすことに注力した。
タイミング良く睡眠計測とゲーム性を併せ持ったアプリ「Pokémon Sleep」がローンチされたこともあって(聞くところによると柳沢先生もアドバイザーとして参加されているとか)、私の睡眠時間は徐々に増えていくことになった。
そして2ヶ月ほど経った9月下旬現在、週ごとの1日平均睡眠時間は 8時間03分 となっている。7月下旬のある週の平均睡眠時間は 5時間50分 であった(これでもある程度睡眠時間を増やし始めたあとである)。今からするとちょっと考えられないくらいだ。正直よく生きていたなと思う。
私にとって本当に必要な睡眠時間はまだ絞り切れていないので、まだ試行錯誤中である。どうやら8時間よりは多く必要かもしれない、というところまでは分かってきた。8時間10分なのか20分なのか30分なのか、もう少し詰めてみたいと思っている。

8時間睡眠時間を確保するということは、私は仕事の日は午前4時半に起きているので、就寝時刻は午後20時半ということだ。となると20時過ぎには電気を消して、布団に入らなければならない。これはなかなかにきつい。一日の生活習慣全体をリビルドしないとこの時間はクリアできない。なにしろ私はつい2〜3ヶ月前まで「もう0時過ぎたからそろそろ寝ないと」と思っていた人間なのだ。
私が今欲しいのは羊のぬいぐるみ🐏である。抱いて眠りたい。


この夏、EMS(Electrical Muscle Stimulation、電気的筋肉刺激)器具の SIXPAD Core Belt を購入した。
いわゆる「腹筋が割れた状態」の腹筋を、腹直筋が腱画けんかくによって6つに割れて見えることから「シックス・パック」と呼ぶ。そのため SIXPAD という商品名もあって、腹筋を割る(≒皮下脂肪を燃焼させる)ことができると誤解されがちだが、EMS には脂肪を燃焼する効果はない。むしろ脂肪は電気を通さないので効果が落ちる。
この SIXPAD の利点は、通常のトレーニングでは鍛えにくい、または鍛えるのが超めんどくさい体幹をお手軽に刺激できるところにある。

https://www.mtgec.jp/wellness/sixpad/

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私はムキムキの身体というのはあまり興味がなく、なりたいとは思わない。だが自分の身体(精神も、だが)を常に把握し、コントロールできるようになりたいとは思っている。自分の心身の状態を常に客観的に見られるようになりたいと思っている。必要なことがあれば、必要なことを、必要なだけ処置できるようになりたい。自分の肉体と精神を研ぎ澄ませていたい。

実際にそのようになれるにはまだまだ道程は遠く、あまりにも奥が深いフィットネスの世界だが、普段の筋トレのメニューに SIXPAD を加えることにした。以前は消耗品のジェルパッドを使用していたそうで、手間も費用もかかるものだったらしい。私が購入した現在のモデルは霧吹きで電極パッド部を湿らすものになっている。これでも随分使い勝手は向上したそうだが、水分がすぐに浸透してくれるわけではないので割と湿らすのが面倒だ。あと冬季は装着するときの冷やっこいのがチャレンジになりそうではある。ひとまず2ヶ月弱続けていて、強度は20段階中の 9 まできている。


最後に、この夏やったこと。ついに自らの遺伝子解析サービスに参加した。私が利用したのは Genequest(ジーンクエスト)。

https://genequest.jp/

「ジーンクエスト ALL」というフルパッケージを、割引を利用して2万円ほどで購入した。なぜそんな低価格でできるのかというと、この遺伝子解析が学術利用を兼ねているからである。むしろそちらが本来の目的で、私たち一般人が自分の遺伝的傾向や健康リスクなどを知ることができるというのは副次的な利用と言えるかもしれない。
私の遺伝子情報をデータベースとして提供することで、低価格で私は自分の遺伝的情報を知ることができる。今後研究が進み、新たな解析項目が追加されればそれも閲覧できる。たとえば今後「犬好きか猫好きか」が遺伝子の型に依ることが分かれば、追加料金なしで知ることができる。まあ解析してもらうまでもなく当然私は犬好きであろう🐶

実は Genequest を知ったのは前述の Tech Support に Genequest 代表(現・取締役)の高橋祥子氏が登場されたからである。東京大学大学院在学中に創業されたようだ。

気をつけなければいけないのは、遺伝子は確定的なものではない、ということだ。たしかにある種の疾病や障碍などは特定の遺伝子に依存することが分かっている[1]

この遺伝子解析サービスは医療行為ではないので、そのような遺伝子解析自体が医療行為となるような、遺伝子に依存する疾病・疾患を教えてくれるわけではない。
またある種の病気にかかるリスクが高い遺伝子の型であると分かったとする。それでもその病気にかかると決まったわけではもちろんない。仮に「あなたはホニャララ病にかかるリスクが他の遺伝子の型より10倍高い遺伝子の型を持っています」と言われたときに「うおっ」と思うことはあっても必要以上にショックを受けて落ち込むような人は遺伝子解析に向いていないと思う。その情報を得た上で、生活習慣を見直したり、リスクをより高めると言われている行動を避ける・リスクをより下げると言われている行動をとる、そういった自分自身に対してイニシアティブをとれる人には有益な情報といえる。

つまり遺伝子解析といっても誤解を恐れずにいえば「何かが分かるわけではない」。ある病気にかかるリスクが高いと言われても実際にはかからないかもしれないし、かかるかもしれない。「あなたはこうである、こうなる」ということが分かるものではないことを肝に銘じる必要がある。
その上で普段の生活を送る上で、ひとつの情報として利用できるかというところが、遺伝子解析のサービスを利用するか否かのポイントだと思う。

さて、私も念には念を入れた意思確認を経たのち、自分の情報を閲覧した。感想としては利用して良かったと思う。詳細は伏せるが、実際に自分の習慣を少し変更させることにした。それが功を奏せばいいと思うし、健康診断も引き続き定期的に受けようと思った。

これは私個人の印象だが、ここで分かる傾向というのは車の運転に少し似ていると思った。車の運転というのは個人の性格が現れやすい。普段は大人しいのにハンドルを握ると性格が変わるなどというが、本当にそういう人は割といる。
そこで例えば私に「ひとりで運転していると運転が荒くなりやすい」傾向があり、「後ろから煽ってくる車がいるとイライラする」という特性があることが分かったとする。
それを知ったらどうするか? 「今日はひとりで運転しているからのんびり運転することを心がけよう」と事前に思うし、ひとりでいても誰かを乗せているような気持ちで運転しようと心がけるだろう。後ろから煽ってくる車がいたら早々と車線変更するなりどこかの駐車場に入るなりしてやり過ごしてしまったほうが良い。
このような傾向があることを自分で分かっていなかったら、なぜか今日は無自覚にスピード出し気味、黄色でも突っ込む、「我ながらなんか今日は運転荒っぽいな」と思うだけだ。車間距離詰めてくる後続車には「テメェ煽ってくんじゃねえよ、急ブレーキかけてやろうかこの野郎」とイライラするだけである。わぁ、こわーい(棒)
知っていれば、心構えができるということである。「それだけ?」といえばそれだけのことだ。でもそれがあるかないかでは「不安」という要素の手触りはずいぶん異なると思う。何が居るかも分からない見えない箱の中に手を突っ込み、手探りで得体の知れないモノに触れる恐怖と、「中にはハムスターが居ます」と教えられてから手を入れるのとではずいぶん違うだろう。それと同じことだ。正しく知るということは人生におけるストレスの低下に繋がる。

ただし、遺伝子解析というのは今も発展途上の真っ只中にあり、日進月歩で研究が進むホットな分野である。解析結果の解釈自体が今後変更されることは十分にあり得る。というかあるだろう。今得られている知見が「本当にそうなのか」はまだまだ分からない。そのことは覚えておかなくてはならない。あくまでも「今のところ」、そして「参考程度に」ということだ。
件の動画の最後で高橋氏はこうまとめている。

遺伝子というと、「運命的」「確定的」「もう変えられない」というイメージがあるかもしれないが、実は遺伝子の要因というのは限られている。遺伝子を知ることがゴールというよりは、遺伝子を知ることでそこから自分がどういうふうに生きていくのか、どういう生活を送っていくのかのほうが大事

それが理解でき、遺伝子というものを絶対視しない人には「受けてみてもいいんじゃない? セール時なら安いし」とおすすめできる。ただ内容は非常に個人的でセンシティブなので、話の種にはできないが。自分の生活、QOL の向上に役立てられたらいいな、という程度の期待と動機で利用するのが良いのではないだろうか。

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